上司をマネジメントする (Managing your boss)
先日のETLの記事の中でも軽く触れたんですが,ホントの意味でデータが組織で活用されるためには,組織全体がデータを使って意思決定をする組織構成になっていないといけない,というのが最近強く感じることです.キンボール先生の本では,このあたりビジネスサイドのキーパーソンを必ず巻き込めと書かれているわけですが,逆にいうとそれしか書いてなかったりします.そんな折,TLでユウタロスさんが以下のようなツイートをしていました.
上司をマネジメントするという視点については、Managing Your Boss という論文で研究もされており、知人のハーバードビジネススクール出(本物)の経営者も在学中に読んでいたく感銘を受けたと言ってました。有効だと僕も思います。https://t.co/3gtnDiecJP
— ユウタロス Ver.1.3.4 (@bishop_ring) 2016年3月26日
データドリブンな組織を作るというのは,まさに組織のトップを抱き込んで動かしていくわけで,つまりは自分の上司やその上司,さらにその上司にまで首を縦に振らせていく必要があるわけです.部下のマネジメント法というのは,そこらの本屋にも結構置いてあるわけですけど,逆に自分の上司をマネジメントという観点でみるのは新鮮だなーと思って,GWの間に読んでみました*1.
Managing Your Boss (Harvard Business Review Classics)
- 作者: John J. Gabarro,John P. Kotter
- 出版社/メーカー: Harvard Business Review Press
- 発売日: 2008/01/08
- メディア: Kindle版
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ざっくりとしたレビュー
見出し的には以下のとおり.
- Misreading the boss-subordinate relationship
- Understanding the boss
- Understanding yourself
- Developing and managing the relationship
- Compatible work styles
- Mutual expectations
- A flow of information
- Dependability and honesty
- Good use of time and resources
この本を通しての一貫しているのは,上司と部下の関係は相互作用的な対人関係である,という社会心理学的な視点です*2.例えば成果を上げてのし上がってきた優秀なマネージャーが,気難しいボスとの関係がうまくいかず,結局事業が失敗してしまった場合に,気難しい上司にも問題はあるかもしれないが,このマネージャーは上司とうまく協調して物事を進めていくスキルが不足していた,という見方をします.とはいえ職場の力関係が示すように,基本的には部下が上司に対してどう付き合っていくかというのが,主要な観点になります.
Understanding the bossという見出しがあるように,まずは上司の性格,意思決定の仕方,ワークスタイルといった点を把握するところから始まります.その上で,上司がスムーズに業務をできるような形に自分のスタイルを調整して合わせていく,というのが基本的な流れです.そして面白いのは,これは功利的・政治的な問題というよりは*3,上司とうまく連携できることで,自分の仕事がうまく進められ,ひいては組織全体によい結果をもたらすという部分が強調されている点です.上司に媚びへつらうというよりも,自分の仕事をスムーズに進めるためには,そもそも上司と良好な関係を築けることが大事であるという話です*4.
もう少しだけ具体的な話でいうと,ワークスタイルを揃える(e.g. 文書で報告されるのが好きか,口頭が好きか),相互の期待を揃える(上司が何を期待しているかを把握する),情報の流し方を調整する(大事な問題だけを伝えるか,細かい情報も逐一伝えるか,ネガティブな情報を伝えるか)といった事柄が挙げられます.それ以外にも誠実であれ,とかどうでもいい話で上司の時間を浪費すると,本当に大事な案件に時間を割いてもらえない,とかそういった話が述べられています.
雑感
読んで思ったのは,これ自体は直属の上司との関係について書かれてはいるけど,組織内のキーパーソンとの関わり方全般について当てはまるよなぁ,ということです.組織にはいろいろな人がいるし,機能別組織であれば部署によって目指す目標は全く違うし,ある部署の目標と,3つ隣の部署の目標が正反対という場合だってあるわけです*5.なので複数の部署をまたいで物事を動かすには,相手の部署が何を目標としているか(何を期待しているか)を知った上で,自分のやりたいことが相手にとっても得になるように調整して,協調することが大事なわけです.これってまさにこの本で書かれていることですよね.
このことを敷衍していくと「情けは人のためならず」の心がけに行き着くかなーと思います.心理学的にはそれこそ古典のチャルディーニの「影響力の武器」なんかでも返報性の法則として書かれているように,こちらから何がしかの恩恵を施した場合,相手はどこかでそれをお返ししたくなるわけです.まぁ実際問題としては,そこまで打算的になってやるというより,一緒に仕事する相手が良い気持ちで仕事できる方が,自分も気分いいよねという単純な話でもいいかなと思ったりするわけですが.
- 作者: ロバート・B・チャルディーニ,社会行動研究会
- 出版社/メーカー: 誠信書房
- 発売日: 2014/07/10
- メディア: 単行本
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あと,Harvard Business Review自体のまとめ記事がこちらにまとまっているので,合わせて読むとよいかなと思います.