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統計学を拓いた異才たち

統計学を拓いた異才たち―経験則から科学へ進展した一世紀

統計学を拓いた異才たち―経験則から科学へ進展した一世紀


ここのところ,私事でいろいろ立て込んでいたのと,この本を読んでいたのとで,いろいろ止まっておりました.Gnousyの開発チームの人たちもお勧めしていたこの本なんですが,統計的な勉強をしてある程度経験を積んだ人に取っては面白い読み物なのではないかと思います.私自身もエキスパートとはとてもいえないので,知らない人名や分野についていろいろ調べたりしながら読む部分もあったんですが,それでも十分に興味深く読み進めることができました.

読めば読むほど,19世紀末から20世紀にかけて,統計学が理論と実践の両方で一気に発展してきたのだなぁということがよくわかります.個人的には.理論的な面もそうですが,いかに現実的な問題を解決するために,実務に携わる統計学者たちが苦心してきたか,というのが割と興味深かったところです.

読んでいる最中の一例として,ITT解析(Intent-to-treat analysis)というのがちょっと面白かったので,軽くご紹介をば.私自身は医療統計の分野にはとんと疎くて初耳だったのですが... 医療現場では,実験群と対照群を厳密に分けたまま実験を完遂するのは,現実的には困難だそうです.新薬を投与して確たる成果がなければ,ほかの薬も試しましょう,というふうになるのが当然なわけですので.そういったかなかで,薬の効果をどう検証するかといったときに,あくまで事前の実験群対照群の区分けで,それでも新薬で有為な差が得られるか,というのをみるのがざっくりというところのIIT解析であるようです.

このやり方だと,当然のことながら実験内容にノイズが多く載るので,効果の検出力が弱まることが予想されるわけですが,少なくとも患者に害を与えることなく薬の効果を検出することが可能,ということになります.こういった現実的な制約をふまえてどう実験計画を立てるかというのは,どの業界でも大事なんだと思います.

ただこのIIT解析については,むしろ逆の見方があるらしく,EBMジャーナルの引用をみると,実際の医療現場ではこういった臨床試験のときはむしろモデルケースであると.つまり,普段の治療では患者が臨床試験のようにきちっと薬を飲んでくれるケースは少なく,むしろIITで扱うケースが実際得られるの効果の上限になってしまっている,というような状況だったりもするそうです.

臨床の現場では,薬がきちんと飲まれるかどうかわからない時点でどれだけの効果が見積もれるかが重要である.きちんと飲んだと仮定しての効果はリアルでない.薬を飲んでもらおうと意図した時点での効果の見積もり,薬を処方しようとするintention(意図)の効果の評価,すなわち意図した治療に基づく解析,ITT解析というわけである.患者背景の不一致という臨床試験では決定的となるバイアスを除く,現実の臨床での効果を見積もる,という2 点においてITT 解析が重要である

という形で,なにを評価するか,どの程度の効果を見積もるか,それをどう活かすか,といった実験デザイン全体について,ちゃんと考えていないとあかんですね,というお話でした.